S

色んな文章の倉庫です。

小説

妖精の休息

霧雨が木々を濡らす。水滴が葉に擦れ、深い緑の香りが際立つ。静寂だけを閉じ込めたような空間だ。 この森に生き物はいない。全ての生き物はまだこの森の存在を知らなかった。 そんな森の最深部、一際大きな楠に背中を預けて座り込む少女の姿があった。熱に…

サナギ

日付の感覚がなくなることにそう時間は掛からなかった。 泥濘のような日々だと思っている。音を立てないデジタル時計は時の流れを知らせなかった。 人間はアルコールに弱い。煙草も性に合わず、一本吸って辞めてしまった。元より金が無い。ギャンブルは損す…

アルビノと夏

夏は僕の温度だった。 『愁は悪くないだろ』 太陽が少し傾いた、昼には遅く、夕方には早い時間帯。カンカンと照る陽射しにうつむいている僕に、夏は強くそう言った。 首を持ち上げれば、怒ったように揺れる黒いランドセルが目に入る、黄色い帽子の下、小麦色…