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色んな文章の倉庫です。

ワンルームエンジェル 感想

「分かってもらえている」という感覚はいつだって人の救いになると思う。 同時に「想ってもらえている」という感覚も。 他者を理解するのは簡単なことじゃない。 なぜなら私達は全員、自分から見た世界しか味わうことが出来ないからだ。 そもそも忙しさを理…

妖精の休息

霧雨が木々を濡らす。水滴が葉に擦れ、深い緑の香りが際立つ。静寂だけを閉じ込めたような空間だ。 この森に生き物はいない。全ての生き物はまだこの森の存在を知らなかった。 そんな森の最深部、一際大きな楠に背中を預けて座り込む少女の姿があった。熱に…

懺悔

物心もつかないうちから、私には虚言癖がありました。 嘘をつく相手は母です。私は家に帰るなり、友達に虐められたと話して泣きました。その友達は嫌な奴で有名でしたし、事実その後にいざこざがあった記憶もありますが、当時虐められたという事実はありませ…

希死念慮

この休憩が終われば、あと一時間と少しで今日は終わる。 左半身でもたれかかるようにドアを開けながら、ズボンのポケットから携帯を取り出す。アラームを十分後の17:40にセットした。在庫品があちらこちらで影を背負いこちらを見ている。ドアの横にあるスイ…

自死の唄

解離していく感覚があった。もうずっとだ。 例えば青が見えるようになった。カーテンから覗く青、清潔なコインランドリーの青や、LEDに照らされ影となった青。澄んだ空気の青。色褪せた時間の青、部屋を満たす青。それはそれは綺麗な青だ。気が付いていない…

ある女の子のお話

ある赤い屋根の家に、女の子が住んでいました。 お母さんとお父さん、そして妹と、家族三人でそれなりに仲良く暮らしていました。 「お姉ちゃん、そのぬいぐるみ、私に頂戴」 ある日、妹が女の子の持っているぬいぐるみを欲しがりました。 女の子はそれを妹…

枯れ林と青年

澄み切った、冷たい夜空の下、海に囲まれた小さな島国に、ぽつぽつと明かりの灯る集落がひとつ。 その中でも一際あたたかい明かりを放つ家に、ある青年が住んでいました。 青年には、奥さんと子どもがいました。 子どもはまだ幼く、最近やっと言葉を覚えたば…

魔法使いの失敗

様々な色の緑に彩られた森の奥、木で出来た小さな家に、ある魔法使いが住んでいました。 魔法使いの腕は確かでした。飛行術はもちろん、どんな薬の調合もお手の物。変身魔法や瞬間移動だってちょちょいのちょい。魔法使いに出来ないことはありませんでした。…

サナギ

日付の感覚がなくなることにそう時間は掛からなかった。 泥濘のような日々だと思っている。音を立てないデジタル時計は時の流れを知らせなかった。 人間はアルコールに弱い。煙草も性に合わず、一本吸って辞めてしまった。元より金が無い。ギャンブルは損す…

DEAR

遊んでいたかっただけだと思う 季節外れの蝉が鳴くから表面を撫でた 深すぎると濡れてしまうのは 多分僕のせいだから 寄生が上手だと 嫌味のような言葉が染みになる 景色の一つに過ぎないことが どうしてこんなにも息苦しい あなたに名前は要らなかった たと…

アルビノと夏

夏は僕の温度だった。 『愁は悪くないだろ』 太陽が少し傾いた、昼には遅く、夕方には早い時間帯。カンカンと照る陽射しにうつむいている僕に、夏は強くそう言った。 首を持ち上げれば、怒ったように揺れる黒いランドセルが目に入る、黄色い帽子の下、小麦色…